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柱上安全帯の歴史

「柱上安全帯」から「ワークポジショニング用器具」へ

はじめに

「柱上安全帯」の原型が誕生したのは昭和27年頃で、その後の研究開発により作業時の身体保持と墜落防止機能を有した製品に進化してきました。しかし、今般の関連法令等の改正により柱上安全帯は墜落制止用器具とは認められなくなり、名称も「ワークポジショニング用器具」と呼ばれることになって使用時には墜落制止用器具を併用しなければならなくなりました。この項では、柱上安全帯の歴史と「ワークポジショニング器具」への変遷について紹介しています。(参考に「ワークポジショニング用器具」に関係する関係法令等(抄)を記しています。)。

1. 誕生期(昭和20年)

戦後間もない頃の配電線工事には、作業者の身体を保持するために麻製の綱を用いその中央部付近を平たくし、両端部はロープ状に編み込んだ綱を使用されていたようです。この麻製の綱は、「胴綱」と呼ばれており、現在でも作業現場では柱上安全帯を「胴綱」と呼ばれることがあります。

胴綱と使用方法
胴綱と使用方法

2. 黎明(れいめい)期(昭和25年から30年)

昭和27年頃に、“ロープの長さを自由に調節できる金具”、現在の伸縮調節器の原型が発明され、当該金具を備えた「柱上安全帯」が製品化されました。
 この頃の「柱上安全帯」の材質は、胴ベルトには綿、ロープには麻が使用されていました。

黎明期の柱上安全帯
黎明期の柱上安全帯

昭和28年頃には、胴ベルトが二重になって工具類をつり下げられるようになりました。当時は、配電柱の多くが木柱で昇降用の足場釘(現在のステップボルト)が完備されていなかったため、昇降用の器具も開発されて、昇降時や作業時の身体保持が確保されるようになりました。

昭和28年頃の柱上安全帯と使用状態
昭和28年頃の柱上安全帯と使用状態

3. 成長期(昭和30年以降)

昭和30年頃から、ロープに合成繊維を用いて強度と品質を高めた「柱上安全帯」が発売されました。
胴ベルトには、D環(フックを掛ける金具)が2個取り付けた構造になり、フックには、不用意な開きを防止するために二重安全装置が組み込まれて安全性が高められました

昭和30年頃の柱上安全帯 )
昭和30年頃の柱上安全帯

昭和36年頃には、胴ベルトのバックルの構造がピン式からスライド式(現在の構造)に進化したことも大きな変革でした。

昭和36年頃の柱上安全帯
昭和36年頃の柱上安全帯

昭和38年頃には、柱上安全帯に後付けできる墜落制止用の補助ロープが開発されました。
柱上安全帯に補助ロープを追加することで、それぞれのフックを交互に掛け替えすることが可能となり、構造物との接続状態が常に保たれることから安全性が大きく向上しました。

補助ロープの例
補助ロープの例
 

また、同時期に補助ロープと同様の役割を果たす目的で、U字吊り用のロープ後端部にフック(補助フックと呼ばれた)を取り付けた構造の安全帯が製品化されました。
 この柱上安全帯の伸縮調節器には、どちらのフック使用時でもロープを把持できる機能が備られています。この構造の柱上安全帯は「無墜落式安全帯」と呼ばれ、多くにユーザーに採用されました

無墜落式安全帯の例
無墜落式安全帯の例

4. 変革期(昭和50年以降)

昭和47年に施行された労働安全衛生規則には、2m以上で作業床の設置等が困難場合の高所作業には安全帯の使用が義務付けられています。
 また、昭和50年労働省告示第67号により労働安全衛生法第42条の規定に基づき「安全帯の規格」が定められ昭和51年1月1日に施行されました。
 昭和52年に「安全帯の規格」の解説的な目的で産業安全研究所技術指針(安全帯構造指針/安全帯使用指針)が発行され構造・強度及び試験方法等が示されました。
 このころから、次々に新しい機能を備えた柱上安全帯の製品化に繋がって行きました。
 その代表的な例を紹介します。

① ロープの取替時期を見える化した製品

柱上安全帯のロープは構造物にU字掛けして使用するため、特にロープの摩耗が進行し強度低下の原因となります。そのため取替時期を知らせるためストランドに識線を編み込んだロープが開発されました。

 織線を編み込んだロープの断面
織線を編み込んだロープの断面
② ショックアブソーバを搭載した製品

昭和58年には、墜落阻止時に作業者に加わる衝撃荷重の低減を目的として開発された、ショックアブソーバが柱上安全帯にも搭載されました。 グラフは、前述の“安全帯構造指針”に準拠した試験方法で衝撃吸収機能を比較したもので、ショックアブソーバの有効性が証明されました。

ショックアブソーバ搭載の柱上安全帯
ショックアブソーバ搭載の柱上安全帯

5.「柱上安全帯」から「ワークポジショニング用器具」へ

昭和27年頃に誕生した柱上安全帯は、半世紀以上の年数を経て進化してきました。
 今般の労働安全衛生規則の一部改正により、事業者に安全帯を労働者に使用させることを義務付ける規定及び安全帯の使用状況の点検等を義務付ける規定において「安全帯」を「墜落による危険のおそれに応じた性能を有する墜落制止用器具(要求性能墜落制止用器具)」に改められた。
 “墜落防止用の個人用保護具の国際的な動向”の流れから、柱上安全帯はワークポジショニング用器具と位置づけられ墜落制止用器具としては認められなくなりました。従って、柱上安全帯を使用していたとしても墜落制止用器具を併用しなければなりません。

墜落制止用器具を併用した使用方法の例
墜落制止用器具を併用した使用方法の例

『関連法令等(抄)』

平成31年2月1日現在
(1)労働安全衛生施行令の一部を改正する政令等の施行等について(基発0622第1号 平成30年6月22日)
  • ・U字つり(柱上作業用安全帯)」の安全帯は、墜落制止用器具としては認められないため、(1)の改正により要求性能墜落制止用器具の使用が義務付けられる作業を行う場合、「U字つり」の安全帯を使用したとしても、要求性能墜落制止用器具を併用しなければならないこと。
  • ・労働安全衛生法第59条第3項に基づき安全又は衛生のための特別の教育を行わなければならない危険又は有害な業務に、「高さが2m以上の箇所であって作業床を設けることが困難なところにおいて、墜落制止用器具のうちフルハーネス型のものを用いて行う作業に係る業務」を追加すること。
  • (2)労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)

    第42条の対象となる機械等から「U字つり」の安全帯を除くため、労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号)第13条第3項第28号の「安全帯(墜落による危険を防止するためのものに限る。)」を「墜落制止用器具」に改めること。

    (3)労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)

    事業者に安全帯を労働者に使用させることを義務付ける規定及び安全帯の使用状況の点検等を義務付ける規定等について「安全帯」を「墜落による危険のおそれに応じた性能を有する墜落制止用器具(要求性能墜落制止用器具)という。」に改める。