日本安全帯研究会 【NO Accident Whith HARNESS】

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安全帯の歴史

「胴ベルト安全帯」から「墜落制止用器具」へ

はじめに

国内で使用されてきた「安全帯」は、建設工事等における墜落防止用として用いる「一般高所用安全帯」と、柱上作業等における身体保持を主目的に用いる「柱上安全帯」に分けられていました。
 これらの安全帯は、共に胴ベルト安全帯ではありますが作業環境と使用方法が相違していることから誕生期とその後の進化は相違しています。今般(平成30年)の関連法令等の改正によって高所作業での安全対策としては「フルハーネス型」の使用が原則となりました。
 この項では「一般高所用安全帯」の歴史と「フルハーネス型」への変遷について紹介しています。

1. 誕生期

昭和20年当初は、鉱山開発のための鉱石採取等の作業における重大な事故が多発していたようです。
 昭和25年頃に、これらの災害防止対策として「安全バンド」や「安全つり帯」が製品化されました。これらの製品には、現在のようなランヤードは接続されておらず、上部から垂らしたロープを当該製品の金具(現在のD環)に結び付け用いていました。

昭和25年頃の「安全バンド類」
昭和25年頃の「安全バンド類」

2. 黎明(れいめい)期

昭和30年頃には、新造船の建造量が増加しそれに伴い墜落災害も多く発生していました。そのため、造船業向けの安全対策として鉱山用の安全バンドをベースにした「造船用安全帯」が製品されました。当該製品には、ランヤードが接続されていました。

 昭和30年頃の「造船用安全帯」
 昭和30年頃の「造船用安全帯」

その後、第一次高度成長期であった昭和35年頃には、インフラ整備(東海道新幹線・首都高速道建設等)による建設工事は急ピッチで進められたことから、建設工事用の安全帯の開発が急がれ同年に「建設用安全帯」が製品化されました。

昭和35年頃の「建設用安全帯」
昭和35年頃の「建設用安全帯」

【まめ知識】

・昭和39年9月1日付で「鉱山安全帯 JIS M 7624-1964」が官報公示されました。

このJISの解説の項には、適用範囲について「この規格は、鉱山、採石場、土木などの高所または急斜面における作業で、作業者の墜落を防止するために使用する胴締め型安全帯について規定しているが、一般の建設現場や造船などにおける高所作業の場合の墜落防止用としても使用できる構造となっている。」と示されています。
・労働災害発生状況調査開始時期(昭和40年)の労働災害による死亡者数は6000名超の方々が尊い命をなくされていました。(資料:厚生労働省「労働災害発生状況」による。)

3. 安全帯の成長期

昭和40年代には、高性能を備えた安全帯の開発が進んできました。その一つとして昭和46年に、墜落阻止時に加わる衝撃荷重を低減できる機能(ショックアブソーバ)を備えた安全帯が製品化されました。

昭和40年頃のショックアブソーバを備えた安全帯
昭和40年頃のショックアブソーバを備えた安全帯

昭和50年頃には、今まで使用されていた丸太足場から鋼管足場の使用が奔流(ほんりゅう)となり、その鋼管に直接掛けることができるフックが開発され製品化されました。このフックは従来のフックと比較すると形状が大きいことから「大型フック」と呼ばれました。

昭和50年頃の大型フックを備えた安全帯
昭和50年頃の大型フックを備えた安全帯

昭和63年頃には、フックの未使用時にロープが収納できる「巻取り式安全帯」が製品化されました。この製品は、ロープにアラミド繊維のストラップ(細幅織)が用いられています。
アラミド系繊維は伸度が極めて少ないため、「巻取り式安全帯」にはショックアブソーバが標準装備されました。

初代の「巻取り式安全帯
初代の「巻取り式安全帯」

【まめ知識】

労働省告示第67号「安全帯の規格」には、巻取り式に関する規定がなかったことから、当該規格の第12条(特殊な構造の安全帯)として、労働省労働基準局長に適用除外申請を行いの認可を得て製品化されました。

平成5年頃には、二本のランヤードを備えた“ダブルランヤード式安全帯”が製品化されました。この“ダブルランヤード式安全帯”は通称「二丁掛け」と呼ばれ、常に人体と構造物が連結された状態が確保でき安全性を高められることができる製品です。

二丁掛けランヤードの構造と使用イメージ

4.「フルハーネス型」への変遷(変革)について

前述したように「一般高所用安全帯」は時代と共に進化を遂げてきましたが、胴ベルト型の安全帯です。一方、欧米では従来から高所作業ではハーネス型が使用されていました。
 日本においても、ユーザーを含めハーネス型についての長所等は理解していたものの、「構造規格」に制定されていなかったこと、従来から使用している胴ベルト型の装着性等から、ハーネス型が普及していないのが実情でした。
 近年、技術のグローバル化が急速に推し進められており、日本で使用されている安全帯においても国際標準化機構(ISO規格)等との整合性を図らなければならなくなってきました。
 平成23年に、(公社)日本保安用品協会の公益事業の一環として、安全帯研究会による「ハーネス型安全帯普及促進委員会」を立ち上げ「ハーネス型の特徴等」について調査を開始しました。
 翌年には、その調査成果としてハーネス型の特徴を示したリーフレットを作成しユーザー等に配布しハーネス型の長所等の啓蒙を行いました。

昭和40年頃のショックアブソーバを備えた安全帯
ハーネス型安全帯の特徴を示したリーフレット

また、平成25年には「ハーネス型安全帯普及促進委員会」の活動報告書を作成し、翌年には、これらに活動結果を纏めた「ハーネス型安全帯の普及促進のための総合的な活動の推進に関する報告書」を厚生労働省に具申しました。
 平成25年には、厚生労働省の「第12次労働災害防止計画」が通達され、建設業の墜落災害防止対策としてハーネス型安全帯の使用を推奨する。と指導されました。
このころから、徐々にハーネス型普及し始め各会員会社において製品開発が活発に行われるようになりました。
 また、ISO規格等では、フォールアレスト用保護具の身体保持はフルハーネス型のみが認められていることから、フルハーネス型を原則とすべきであるとされ、関係法規等やJISが改正されました。