日本安全帯研究会 【NO Accident Whith HARNESS】

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墜落制止用器具の選定と正しい使い方

 労働安全衛生法施行令の一部改正によリ、「安全帯」の名称が「墜落制止用器具」に改められました。また、労働安全衛生規則に「特別教育を必要とする業務」にフルハーネス型のものを用いて行う作業に係る業務が規定されました。


事業者は高さが2m以上の高所作業において、作業床の設置、作業床の端および開口部等に囲い、手すり、覆い等を設けることが困難な場合には、労働者に墜落による危険のおそれに応じた性能を有する墜落制止用器具(要求性能墜落 制止用器具)を使用させなければなりません。墜落制止用器具は、厚生労働大臣が定める「墜落制止用器具の規格」に適合しなければ、譲渡または、使用させることもできません。 本パンフレットは、墜落による危険のおそれに応じた墜落制止用器具の選定方法とそれらの正しい使い方について説明したものです。


落制止用器具の種類と用途

墜落制止用器具には、フルハーネス型と胴ベルト型の二種類があります。

墜落制止用器具の選定については、フルハーネス型を原則とし、墜落時にフルハーネス型の着用者が地面に到達するおそれのある場合の対応として胴ベルト型の使用が認められています。

全部改正される「墜落制止用器具の規格」には、使用制限についての条項が新たに設けられ第二条に6.75mを超える高さの箇所で使用する墜落制止用器具はフルハーネス型でなければならないと規定されています。

墜落制止用器具は、作業箇所に安定した足場があリ、作業者は、当該器具に身体を預けることなく作業ができる場所で使用するもので、万ーの墜落時に作業者に加わる衝撃荷重を低減させるとともに、身体を支持する機能を有した器具です。

フルハーネス型
フルハーネス型
胴ベルト型
胴ベルト型

墜落制止用器具の構造

フルハーネス型の構造(「墜落制止用器具の規格」第三条)

(1) 墜落を制止するときに、着用者の身体に生ずる荷重を肩、腰部、腿等において、フルハーネスにより適切に支持する構造であること。

(2) フルハーネスは、着用者に適切に適合させることができること。

(3) ランヤード(ショックアブソーバを含む。)を適切に接続したものであること。

(4) バックルは、適切に結合でき、外れにくいものであること。

但し、胴ベルト型は下記の条件も備えていなければならない。


①墜落制止時の衝撃荷重が4kN以下であること。
②ランヤード長さは、墜落時に地面に到達することを防止するため1.7m以下であること。
③作業床の高さが6.75m以下でなければ使用できない。)
フルハーネス型
フルハーネス型の構造図(一例)
胴ベルト型
胴ベルト型の構造図(一例)

ワークポジショニング用器具について

ロープに作業者の身体を預け、身体を作業箇所に保持する場合に用いていた安全帯(「柱上安全帯」「傾斜面用安全帯」)は、ワークポジショニング用器具と位置づけられ、これらを用いて作業を行う場合には、バックアップとして墜落制止用器具を併用することが原則化されることになります。(労働安全衛生規則第518条2項、第539条の7)


「柱上安全帯」

ロープを電柱等の構造物にU字状に回し掛けし、当該ロープに着用者の身体を預けて使用する「柱上安全帯」は、規格改正により、ワークポジショニング用器具(作業用)と分類され、「墜落制止用器具の規格」には規定されていません。従って、「柱上安全帯」使用時には、墜落制止用として、フルハーネス型を併用することが原則となります。

ショックアブソーバの種別表示
(要求性能墜落制止用器具等の取付け設備等)安衛則第521条

「傾斜面用安全帯」

ロープ高所作業に用いる「傾斜面用安全帯」は、メインロープに着用者の身体を預けた状態で作業を行い、ライフライン(墜落防止用)に取り付けたグリップ等のランヤードを着用者の胴ベルトの「D環」に接続して使用しています。

傾斜面用安全帯も、墜落制止用として、フルハーネス型を併用することが原則となります。

ショックアブソーバの種別表示
(ロープ高所作業も「特別教育を必要とする業務」と規定されています。)安衛則第36条40号
(要求性能墜落制止用器具の使用)安衛則第539条の7

要求性能墜落制止用器具の選定について

事業者は、労働者に対し、墜落による危険のおそれに応じた性能を有する墜落制止用器具(要求性能墜落制止用器具)を使用させなければなりません。

墜落による危険のおそれに応じた性能を有する墜落制止用器具の選定要件は次の通りです。

要件 1 :6.75メートルを超える箇所では、フルハーネス型を選定すること。

2メートル以上で作業床がない箇所または、作業床の端、開口部等で囲い手すり等の設置が困難な箇所の作業での墜落制止用器具は、フルハーネス型を使用することが原則となります。

ただし、フルハーネス型の着用者が地面に到達するおそれのある場合(高さが6.75メートル以下)は胴ベルト型を使用することができます。

(一般的には建設作業の場合は、5メートルを超える箇所、柱上作業等の場合は、2メートルを超える箇所ではフルハーネス型の使用が推奨されます。)

ショックアブソーバの種別表示

(挿絵引用)厚生労働省発行
H 31.1安全帯が「墜落制止用器具」に変わります!(リーフレット)

要件 2 :使用可能な最大質量に耐える器具を選定すること。

墜落制止用器具は、着用者の体重及び装備品の質量の合計に耐えるもので なければなりません。(85kg用または100kg用)製品に最大質量の表示が義務付けられているので、選定時には必ず確認してください。

フルハーネス型
(100kg用が適切な者)
胴ベルト型
表示例
(挿絵引用)厚生労働省発行
H31.1安全帯が「墜落制止用器具」に変わります!(リーフレット)


要件 3 :ショックアブソーバは、フック位置によって適切な種別を選択すること。

腰の高さ以上にフック等を掛けて作業を行うことが可能な場合には、第一種ショックアブソーバを選定します。鉄骨組み立て作業等において、足下にフック等を掛けて作業を行う必要がある場合は、フルハーネス型を選定するとともに、第二種ショックアブソーバを選定します。(両方の業を混在して行う場合は、フルハーネス型を選定するとともに、 第二種ショックアブソーバを選定します。)

フルハーネス型
(100kg用が適切な者)
胴ベルト型
表示例
(引用)厚生労働省発行
H31.1安全帯が「墜落制止用器具」に変わります!(リーフレット)


ショックアブソーバについて

ショックアブソーバには、種別(第一種または第二種)、最大自由落下距離(落下試験を行った自由落下距離のうち最大のもの)注-1、使用可能な質量(着用者の体重と装備品の質量の合計の最大値)、落下距離(標準的な使用条件の下で使用した場合の落下距離)が表示されています。

下図は表示についての一例を示しています。

フルハーネス型
フルハーネス型の一例を示したものです。 最大自由落下距離や落下距離は
使用される製品によって異なりますので、 取扱説明書等をご確認ください。
注?1:第一種ショックアブソーバの自由落下距離Aは1.8mですが、1.8mを越える自由落下距離を落下させ、第一種の基準に適合することを確認することは、より安全な措置として認められています。
フルハーネス型では、ランヤード接続位置(D環の高さb:1.45m)、手すり高さ(フック取付け箇所の位置a:0.85m) とすると、追加落下距離は0.6mとなり、ランヤード長さが1.7mの場合、最大自由落下距離は1.7+0.6=2.3mとなります。
(ランヤード長さによって異なります)

自由落下距離と落下距離について

今回の規格改正は、ISO規格等との整合性を図るため、ショックアブソーバ単体の耐衝撃性が定められています。現行の規格では、製品の耐衝撃性能はランヤード長さを自由落下距離として行っていました。

規格改正により製品の耐衝撃性能は、ショックアブソーバを備えたランヤードを標準的な使用条件の下で使用した場合を想定して行い、その条件の自由落下距離と落下距離の値を表示しなければなりません。「自由落下距離」と「落下距離」は、要求性能墜落制止用器具の選定に重要な項目となります。

フルハーネス型

フルハーネス型の特長

1. 衝撃荷重が分散できる。

胴ベルト型は墜落制止時に胴部に衝撃荷重が集中して加わるのに対し、フルハ ーネス型はハーネスで衝撃荷重が分散できる。

フルハーネス型
注:測定結果の値は、主要部位に加わった最大荷重のみを測定したものです。
そのため、測定値の総和は(4.85kN)に比べ低くなります。
胴ベルト型
試験結果を身体に置き換えたイメージ図
衝撃荷重の測定は、(公社)日本保安用品協会のハーネス型安全帯普及促進委員会において、日本安全帯研究会が独自に専用のトルソーを製作し、落下試験を行った結果を示したものです。
人体ダミーを用いた場合との試験結果と一致するものではありません。

2. 身体保持機能が優れている。

複数のベルトで身体を保持するため、墜落制止時の身体のすっぽ抜けのリスクが大幅に軽減できる。

3. 宙つり状態での身体に加わる負荷が軽減できる。

腿部や肩部のベルトによって体重を支持するため、被災者に加わる負荷が軽減できる。


フルハーネス型
胴ベルト型の宙吊り状態
胴ベルト型
フルハーネス型の宙吊り状態

4. 救助活動が容易である。

墜落制止時に体勢が直立に近いため、迅速な救助ができる。


救助の重要性について
マンホール等の狭所では有毒ガスや酸欠等による重大な災害に繋がる危険性があるため素早い救助が求められる。
文献によればフルハーネス型においても、腿部のベルトにより血管が圧迫されて ‘‘サスペンショントラウマ'’注-2が発生することがあると報告されており、重大な二次災害に繋がる可能性がある。
注ー2 :長時間フルハーネス型に吊られたことにより止められた血流が、救助後一気に解放されることで心臓への血流が急激に増加し、死に至ることがある。

墜落制止用器具を正しく使用するためのポイント

ご使用前には、必ず取扱説明書をお読みください。


POINT1

墜落制止用器具は取扱説明書の装着方法に従って装着していますか?
ベルトのバックルは確実に連結していますか?

フルハーネス型
POINT2

肩ベルト・腿ベルトおよび胸ベルトは緩みがないように締めていますか?
D環の位置が方肩甲骨のほぼ中央になっていますか?また、工具等を吊り下げる下げる作業ベルトも緩みがないように締めてください。

フルハーネス型
POINT3

胴ベルト型は腰骨のところでしっかりと締めていますか?

フルハーネス型
POINT4

胴ベルト型の場言、墜落時の衝撃による背骨へ負担を軽減させるために、D環あるいは巻取り器の位置は身体の横、あるいは斜め後にくるように装着していますか?

フルハーネス型
POINT5

フックの取付位置によって適切なランヤードを選択していますか?腰より高い位置にフックを掛ける作業の場合は、タイプ1ランヤード、注-3足元にフックを掛ける作業の場合はタイプ2ランヤード注-4を選択すること。
両方の作業が混在する場合は、フルハーネス型を選定し、タイプ2ランヤードを用いること。(P.6参照)

注-3:タイプ1ランヤードとは、第一種ショックアブソーバを備えたランヤードを言います。

注-4:タイプ2ランヤードとは、第二種ショックアブソーバを備えたランヤードを言います。


POINT6

ランヤードは鋭い角に触れないようにしていますか?
(触れる可能性がある場合は必ず布等で養生してください。)

フルハーネス型
POINT7

ランヤードのフックはできるだけ高い位置の堅固な構造物に取り付けていますか?

フルハーネス型
POINT8

ランヤードのフックは、墜落した場合に振り子状態になって構造物に激突しないような場所に取り付けていますか?

フルハーネス型
POINT9

垂直・水平親綱の1スパンを利用する作業員は、必ず1人にしていますか?

フルハーネス型
POINT10

フックが滑り落ちるような箇所に取り付けていませんか?
墜落制止時にフックが滑り、衝撃荷重が高くなり、フックが変形し、墜落を阻止できない場合があります。

フルハーネス型
POINT11

ランヤードを使用しない時は、袋に入れるか、肩に掛けるなど適切に処理していますか?

フルハーネス型
POINT12

さつま編込部の点検をしていますか?

(さつま編込部に屈曲した状態で繰り返し荷重が作用すると、型くずれを起し、抜ける場合があります。)

フルハーネス型
POINT13

一度でも大きな荷重が加わった場合や、点検等において異常があった場合は廃棄していますか?

(外観では判断できない強度劣化を生じている場合もあります)


POINT14

ランヤードの交換はどの様な方法で行っていますか?

・ランヤードの部品が摩耗したリ損傷した場合は、メーカーが推奨する方法で行って下さい。

・ユーザーによる改造は、十分な性能が保てない場合があるので絶対に行わないで下さい。

また、異なるメーカーのフルハーネスとランヤードの組み合わせに関する「墜落制止用器具の規格」とその解釈例規(通達)は、次のとおりです。


墜落制止用器具の規格
(部品の接続)
第七条 墜落制止用器具の部品は的確に、かつ、容易に緩まないように接続できるものでなければならない。
2 接続部品は、これを用いて接続したために墜落を制止する機能に異常を生じないものでなければならない。

基発0125第2号「安全帯の規格の全部を改正する告示の施行について」(解釈例規)
8.部品の接続(第7条関係
3)本条第2項の規定は、別々の製造者によって製造されたランヤードとフルハーネスなどが組み合わされる場合であっても、相互に干渉することなく、所期の機能を発揮できる必要があることから規定されたものであること。



POINT15

製品に縫い付けてあるネームに使用開始年月を記入し、交換時期の目安にしていますか?

(ランヤードは2年、その他は3年が交換の目安です)

フルハーネス型
POINT16

フルハーネスの選定として、作業者の体型に適合したサイズを選定していますか?

購入にあたっては、製品のサイズ表を目安にサイズを選定してください。下図は、フルハーネスのS・M・L・LLの適用サイズ範囲の一例で、身長と体重から適用範囲を示したものです。 メーカー毎に構造等の違いや、防寒服の着用時および個人の体格差によってサイズ表と一致しない場合があります。フルハーネスのサイズを選定される場合の目安としてください。

フルハーネス型

フックの正しい掛け方

フック等はランヤードのロープ等の取付部と、かぎ部の中心に掛かる引張荷重で性能を規定したものであり、曲げ荷重・外れ止め装置への外力に関しては大きな荷重に耐えられるものではないことを認識した上で使用すること。
(墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン(基発0622第2号))による。
 従って、フック本体に曲げ荷重やコジおよび、外れ止め装置に押さえ荷重が加わらないように使用してください。

フルハーネス型

墜落制止用器具取換要項

フルハーネス型の取換要項の一例を示したものです。詳しくは、製品の取扱説明書に従って作業前点検を行ってください。また、作業前点検のほかに一定期間ごとに定期点検も行ってください。


フルハーネス型

要求性能墜落制止用器具の使用に関する関連法令等

フルハーネス型